「理由はそれだけか?」

 アルトの全てを見透かしてしまいそうなエメラルドグリーンの瞳が、逃さないとばかりに覗き込んでくる。アルトは誤魔化そうとアウアウと唇だけ動かしてみるが、ミハエルの瞳から逃れられるわけがない。それでも、ささやかな抵抗にとアルトは顔を背けたまま口を開いた。

「・・・・正月は、その・・・・・給料に色が付くって・・・・・」

 思わず、ミハエルはプッと噴き出した。母親の遺産だけで生活していた日々と違い、SMSに入隊し危険手当だ何だと、学生には余る程のバイト代を得ているにも関わらず、仄かな足しにしかならない正月手当てに身を売ったとは。アルトらしいと言えばアルトらしいか。

「文句あンなら・・・・ハッキリ言えよ・・・・」

 喉の奥で笑いを堪えるミハエルに、アルトは唇を尖らせた。どうせ笑われると思っていたが、こうして本当に目の前で、しかも至近距離で爆笑を我慢されるのは本気で腹が立つ。アルトは、腹筋崩壊寸前のミハエルに呆れた表情を向けた。

「つうか正月出勤が嫌なら、別にオレに付き合わなくても良かったんだぞ?」

 アルトが正月にシフトを入れた話をすると、ミハエルは血相を変えてシフト変更に走ったのだ。こんな風に文句を言われるなら、一人でゆっくりしてればいい、と肩を竦めるアルトに、ミハエルはやれやれと首を振った。ギュッと抱き寄せて、分かってないなぁ、と呟いた。

「正月休みを過ごすにも、アルトがいなきゃ意味ないだろう?一人で家にいて、何が楽しいんだよ」

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